アライグマ



北米産の外来種で、ペットとして輸入されたものが放逐されて野生化したものと考えられる。同じく外来種のハクビシンが主として既存種の生態的地位の隙間を埋めるような形で分布を広げているのに対して、アライグマには既存種を駆逐する傾向が窺え、本種が既存動物相に与える影響は大きい。川や谷にそって移動する傾向が窺えるが、必ずしも水域に依存するものではなく、川や谷から離れた山中にもフィールドサインは認められる。フィールドサインは主として特徴的な足跡であるが、特に前足の足跡は幼児が四つ這いで歩いたような印象を与え、識別は比較的容易である。









アライグマの足跡 1 後足
写真は共に右後足のものと考えられ、左の写真では親指の跡が不明瞭である。後足は踵まで接地することが多く、完全な蹠行性に近い。指の跡はアナグマやツキノワグマのように円く独立せず、ヒトの指のように細長く掌球に続く。通常親指は最も小さく、最も後に位置する。時に小指が大きく開いて、親指が離れたニホンザルに似た印象を与える。








アライグマの足跡 2 前足
写真は共に右前足のものと考えられる。一見ヒトの幼児の手形に似るが、指と掌球との間に段差がある。掌球の前縁は、後足よりも滑らかで急なカーブを描く。通常親指は最も小さく、最も後に位置する。前足で器用にものをつかむが、四本の指をそろえて対象物を巻き込むようにつかむもので、ヒトやニホンザルのように親指が反対方向から巻きつく(親指対向する)ものではない。








アライグマの足跡 3 足跡のパターン
写真上は、左が左前足と右後足、右は左後足と多分右前足
写真中は、右前足(右)と左後足(左)
写真下は、一見ウサギ跳びのギャロップパターンかと思えるが、左は右後足(左)と左前足(右)、右は左後足(上)と右前足(下)
掌球の前縁は、前足では靴の中敷きのような左右対称に近い滑らかなカーブを成すが、後足では小指側にやや偏って前に突き出た台形に似たカーブを成す。
歩行のパターンは、原則的には下図のように対角線に位置する前足と後足の足跡がほぼ横に並んで交互に残るものであろうと考えられるが、実際には上の写真に見られるように下図のような典型的パターンの事例は希である。おそらくは、水辺のような足跡の残りやすい場所では、アライグマはスタスタと一定のリズムで歩かず、周囲をあさりながら前進するのであろう。タヌキがこまめに移動してあさるのに対して、体を曲げて姿勢を変えながら周囲をあさりつつ前進するのがアライグマの行動の特徴でもあると考えられる。
およそ15cmを越える新雪の上では、テンやアナグマと同様に前足と後足をそれぞれ左右そろえて雪の上を跳び、後足と前足がほぼ同じ位置につく。ギャロップで走る場合はこれに似て、後足が前足よりやや前に着くとされているが、確認する機会に恵まれていない。



これは歩行の基本パターンであり、実際には乱れた位置関係でつくことが多い。









アライグマの足跡 4 その他の事例
写真上(左右):黒いビニルシートの上の足跡。ビニルシートの上には足跡が鮮明に残り易いが、ビニルシートは多くの場合泥のように沈まず、アライグマの場合接地圧の高い部分のみが残る。立ち止まった場合(特に前足を浮かせた場合)を除いて後足の足跡が完全に残ることは希である。堅いコンクリートの平面などでは、この傾向は更に顕著である。
写真中左:雪の上に残る左後足の跡。
写真中右:コンクリートのU字溝に残る足跡。U字溝を移動経路として使う傾向がある。
写真下左:川岸の泥に残る一連の足跡。川岸では周囲をあさりながら姿勢を変化させつつ移動する様子が窺える。
写真下右:川に下る鉄の階段に残る足跡。コンクリート護岸の場所ではアライグマも階段を使っている。










アライグマの糞
イヌ、タヌキ、アナグマの糞の識別がしばしば困難であるように、アライグマもこれに加わって糞の識別は極めて困難である。動物園における観察と周辺の環境や足跡から見て、上の写真に見られるように、太いヒトの指をまっすぐにしたような銃弾型が一つの典型を成すようである。下の写真のように複数の糞片からなる場合がむしろ一般的と思われるが、この例の場合は糞が古く、信頼度は高くない。足跡や目撃情報から相当数の生息が見込まれるにも関わらずアライグマによると思われる糞の発見事例は少なく、識別点の把握を一層困難にしている。谷筋や川沿の発見し辛い場所に脱糞するか、あるいは水域や流れ際に脱糞するため流亡する可能性が高いのかも知れない。