地球温暖化に伴う植物や昆虫の異変に10年ほど前から気づき、今も警鐘を鳴らし続ける人がいます。主原憲司(すはらけんじ)氏です。
生態不明の最後のゼフィルスと呼ばれた「ヒサマツミドリシジミ」の生態解明をしたことで、昆虫の研究者にはとても知られている人です。昆虫の生態研究ほか、観察した昆虫や植物の点描の細密画は命を感じるほど。中でも、蘭の花と訪花昆虫の関係に着目した、膨大な細密画と観察記録はすばらしいの一言。
主原氏は,京都大学の芦生演習林のガイドもされています。元々、昆虫の分類と生態、植物の分類にも優れた業績のある主原氏。過日、「芦生の地球温暖化の兆候について、皆さんにぜひお知らせして欲しい。」との連絡がありました。わずかですが、主原憲司氏と保賀昭雄が気づいた地球温暖化の兆候について以下に紹介します。
2002年の2月から3月にかけて、夏を思わせる気温にまで上昇する日が多く、ギフチョウをはじめ、春に出現する昆虫が例年の発生時期より早く羽化してしまいました。早期の羽化は♂に見られ、同時期に♀がうまく羽化できなかったようです。さらにエサとなる花粉や蜜の供給時期、産卵植物の発芽時期とも重なり合わず、昆虫類は大打撃を受けて死に、産卵に失敗したのではないかと言うのです。2003年、2004年の京都では、標高600m以下のギフチョウ生息地のほとんどで発生が見られず、食草であるカンアオイに産卵が確認できませんでした。
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ウスバシロチョウは、20年前には芦生で5月20日頃になると成虫が飛んでいました。しかし、1995年頃から5月5日と初見日が早まり、2003年の初見日は、さらに4月27日と早まっています。
ウグイスにも異変がありました。2002年は6月になっても、産卵前のラブコールを繰り返えしていると言うのです。ウグイスは、初春の昆虫が多く羽化する季節にラブコールを繰り返します。通常春3月頃にペアになり、産卵と子育てが始まるので、ラブコールはなくなるはずでした。しかし今年は昆虫の発生が異常に早く、しかも3月に集中したためエサ不足が起こり、ウグイスが子育てに失敗し、ラブコールを続けているのではないかと推察されています。
2002年、植物についても同様のことが起っています。芦生で樹齢70年のミズナラの古木は、直径1mほどもあります。これらの大木が、南方系のカシノナガキクイムシの被害を受け大量に枯れはじめています。標高700mラインのミズナラだけでなく、コナラやクリも同種により食害を受け、被害地域はより大きく広がり、今では芦生演習林から丹後半島にまで拡大し続けています。樹が枯れたことで、ミズナラは表土をつかみ続けられなくなり、斜面の崩壊が始まっています。その結果、潅木類も抜けたり根が出て枯れていると言うのです。これからは、土砂崩れも頻発するかもしれません。
また近年クマが、周山や嵐山など、左京区や北区の市街地に近い低山地に現れています。ミズナラやコナラが枯れ花も咲かないので、当然実は実りません。ドングリが無いのでクマは食べ物に困り、暑さに強いコナラが生えるふもとへ下りて来ているのではないかと語っておられました。
厳冬期にも野山の草が枯れない事から、ホンシュウジカは食べ物に困らず、個体数が異常に増加の傾向があります。個体数が増えすぎたせいか、シカに限らずイノシシも畑や水田に下りてくる機会が増えています。(2002,9,10 VOL59に上記の文面のほとんどを掲載しました。)
2000年頃から、蝶類では京都でナガサキアゲハ、ホソオチョウ、クロセセリ、イシガケチョウが採集されました。また2004年には、分布地の拡大が言われるようになりました。京都市下京区では、2002年の熱波の発生以来、早春から南方系のツマグロヒョウモンが、パンジーなどの花のある付近で見られるようになりました。ホソオチョウ、クロセセリ、イシガケチョウが京都に分布するのは、京都在住のコレクターがかなりの数の♀を放蝶したからだという意見が強くあります。しかし、暖冬のせいで死ぬ事もなく簡単に越冬し、緑地の多い地域で確実に分布を拡大し増え続けています。このようなことから考えても、ウエストナイル熱を媒介する蚊が入り、新たな発生が認められたなら、地球温暖化による危惧のレベルは、想像を絶するものとなるでしょう。
テレビにも、オーストラリアの比較的寒冷な地方にオオカバマダラが分布を広げている様子が報道されていました。また、大雪山のウスバキチョウは、本来の羽化の時期ではなく秋におかしな発生が見られ、受精しないまま♀が死んでいると言うのです。主原氏によると、ミズナラを幼虫期の食樹とする芦生演習林の「エゾミドリシジミ」の2004年の発生期を見ると、ほぼ全滅に近いダメージを受けているだろうとの意見です。同様にジョウザンミドリシジミをはじめ、ミドリシジミ類の発生数も激減した模様です。
私の家の庭にある小さなヤマザクラは、2003年10月20日から2004年4月の桜の開花期までずっと、絶えず10~20の花をつけ、見る人を不思議がらせました。そして8月20日には、またちらほらと花をつけました。
また京都では非常に珍しい、ムラサキツバメと言う暖かい地方に分布する蝶が、約30年ぶりに京都府内で大発生しています。植栽でマテバシイが植えられるから分布地もさらに広がっています。
これらは全て、地球温暖化から生じた現象や異常信号であるとしか考えられません。
主原氏からも「自然科学の研究にかかわる人は、社会に地球温暖化の警告とその対処方法を、さらに発信してほしい」とのことでした。
2005年の春、HOGAの桜は花開きませんでした。陽気が強くなりヤマザクラにとって良くないのか、焼けたように葉が落ちてしまいました。すると、また小さなかわいい花が付き始めました。9月末から3週間程度、いくつかづつ花が咲いています。今年は、何度咲くのでしょうか。 |
2005.10.14 HOGA 保賀 昭雄 |
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2006年6月30日には、京都大学芦生演習林に程近い場所と佐々里峠周辺へ出かけ、7月8日には滋賀県高島市の滋賀・福井県境へと出かけました。どちらも目的は、ミズナラを食草とするミドリシジミと呼ばれる蝶の仲間を写真撮影するためでした。蝶の生息地に行くとカシノナガキクイムシによるブナ枯れで,ミズナラとコナラの立ち枯れが凄まじい勢いで広がりを見せていました。ミズナラとコナラは、一目で10本の枯れ木を発見することができます。被害の拡大でミドリシジミの仲間が減少や絶滅する地域も今後出てくると考えられます。また、ブナ科やシイノキが枯れることにより、ドングリの量も大幅に減少することになります。そうなると、堅果類を食料とするクマやその他の動物たちも食料を得られにくくなります。ネズミやリスが大幅に生息数を減少すると、さらにそれらを食料とするキツネやタヌキ、テン、猛禽類までもが絶滅の危機に陥るのかもしれません。カシノナガキクイムシの被害と生態については、連載を頼まれたニューサイエンス社刊「昆虫と自然 2006,12 臨時増刊号 40-43pp」の「昆虫のトラップ調査法 2」に紹介しています。ご覧ください。 |
2006.11.29 HOGA 保賀 昭雄 |
カシノナガキクイムシを捕獲するための主原式ストロートラップ
1本に20~100匹近くも入ることがあります。 |
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